「速いけど、折り合いがつかない」クラシック前はそんなイメージだったオリオンザサンクス。しかし、クラシックで堂々の主役だった。
道営デビュー。旭川競馬場1000mの2歳レコードを2度更新しての大井転厩。転入緒戦の全日本3歳優駿は道営で1000mしか経験がなかったこの馬には未知の1600m。加えて初めての左回りで相手強化。結局、JRA勢との先手争いで末を失くして10着惨敗。「まぁ、速いんだろうけど。相手もそろってくると…」と疑問ありきの目で見ていたが。
大井初登場となった1月19日若獅子特別あたりから風向きが変わってくる。1700mの大外枠から暴走とも思えるペースで飛ばし、7馬身差の圧勝。時計も1分48秒台と納得のいくものだった。圧巻のレースをしてみせたあとの京浜盃。当然、人気も1番人気。前走が前走だけに、みんなが逃げると思っていたオリオンザサンクスだが、雪が降る悪コンディションの中、逃げたのはサンノアボーイ、これを1コーナーでリックファントムが内から交わす。「何もしなくてもハナには立てる」と思っていたオリオンザサンクスだが、なんと好位3番手で折り合いをつけた。前を行く2頭を見る形でレースを進め、3コーナーで早田秀治騎手がGOサイン。並ぶまもなく交わすと、あとは独壇場…と思いきや、大外からケイシュウエクセルの強襲に遭いアタマ差の辛勝。時計は1分48秒0と納得のいくものだったが、折り合い優先のレースぶりで「どうよ?」と疑問符が残るレースぶりだった。
この年、7月にジャパンダートダービーが新設された。これにより、例年5月に行われていた羽田盃が1ヶ月早まり、4月に施行。距離も100m短縮され1600mに。秋に行われていた東京王冠賞がクラシック2戦目として5月に移行し距離は1800mに変更。そして3冠最終戦は東京ダービー。距離も2ハロン短くなって2000m。春に3冠レースを完結させる、アメリカ型のレース体系に変更された。これが結果としてオリオンザサンクスには幸運だったのかもしれない。
ステップレースを勝ち、主役として迎えた羽田盃。スピードのある馬に断然有利な内コース1600m。しかも、前走迫られたケイシュウエクセルがスプリングSを使ったこともあって回避。この馬に条件が向いた舞台で、単勝1.4倍の圧倒的支持を受けた。今回はスタートを決めると一気に飛ばし、前半35秒6のハイペースで後続をぐんぐん引き離す。さすがに向正面で流れは落ち着いたが、最後まで手綱は抑えたまま快勝。「道中は折り合いに専念したが、これ以上は抑えられない」と早田騎手がレース後言っていたように、スピードにモノを言わせたレースだった。そして東京王冠賞。距離は初めての1800m。スタートで後手を踏んだこともあったが、逃げはせず、それほど速くない流れの2番手からレースを進めた。3コーナーから動き始め直線では一旦抜け出した。が、そこからが思いのほか伸びない。内から伸びてきたオペラハットが抜け出す、外から追い込んできたタイコウレジェンドにも交わされ結果3着。タイム差はないものの、どこかちぐはぐな感じに映った。
そして、いよいよ東京ダービー。東京王冠賞の敗戦は相手にうまく乗られたものだったのか、それとも距離の限界だったのか。距離はさらに延びて2000m、人気の中心も王冠賞を勝ったオペラハットに譲り2番人気。しかし、今度は自分の競馬に徹する。ハイラップで飛ばし、前半3ハロンは36秒1・後続に7~8馬身をつけて直線に入る。直線タイコウレジェンドが追い込んできたが、時すでに遅し。2馬身差まで詰め寄られはしたが、終いも39秒2でまとめる完勝だった。「抑えていこうと思ったが、折り合いがつかなかった」と早田騎手は言っていたが、スピードが抜けているなら、無理に抑えるよりも長所を最大限活かした結果が、2冠制覇に繋がったのだと思う。
その後、新設されたジャパンダートダービーでもJRA勢を向こうに回し、大逃げを打った。最後はオペラハットにクビ差まで迫られながらも何とか凌ぎ切った。そのジャパンダートダービーの後も「折り合いがつかなくて…」と早田騎手は決まり文句を口にしていた。
日刊競馬 編集部 星野貞広