トップメッセージ
世界に開かれたTCKへ。
世界と競い合うTCKへ。
前・大井競馬開催執務委員長
斉藤 弘
2021年11月、世界唯一の左右両回りコースを導入するTCK。
ここから、どんな競馬が始まるのか。
その先に、どんなビジョンを描いているのか。
前・大井競馬開催執務委員長 斉藤弘が、新しい世界へ走りだしたTCKのこれからを語ります。
ー世界唯一の取り組みとなる左右両回りコース。
導入を検討するきっかけは何だったのでしょうか?
4年くらい前でしょうか。TCKの国際化というものを進めていた時に、ヨーロッパの芝の競馬を、もう一度きちんと見ようということになったんです。それで、凱旋門賞で有名なパリ・ロンシャン競馬場に行く計画を立てていたのですが、せっかくフランスに行くのならその近くに何か面白いところはないかと思って調べていた時に、メゾンラフィット競馬場(※ 現在は閉場)のことを知ったんです。すごく広くて、直線が長いのが有名なコースなのですが、それを生かして左と右、両回りでレースをやっているということがわかった。両回りってどういうことなんだ?と思いました。ちょうどその時、たまたま、フランスのクアトロ騎手が期間限定騎手としてTCKに来ていまして、彼に、「メゾンラフィット競馬場で両回りをやっているそうだが、乗ったことはあるか?」と聞いたら「ある」と答えました。「本当にやってるんだ!これは面白いな」ということになり、TCKでも実現できないだろうかということで検討が始まりました。他の競馬場にはなかなかできないことだと思うので、もし本当に実現できたら、面白いだろうなと思っていました。
ー検討を始めてから実現まで4年。
やはり、それだけ困難も多かったということでしょうか?
大井競馬場はシンメトリーな形で、坂もなくて平坦なんです。だから、基本的には大きな課題というのはないはずでした。しかし、実現に向けて動き出した時に一つ、右回り用のスターティングゲートをそのまま逆向きには設置できないという課題が出てきた。ゲートをどうやって左回りに対応させていくかを確かめて改修・改造していくのに、だいたい1年かかりましたね。あとは競馬関係者の方々のご理解ですね。大井競馬場はずっと右回りでやってきて、右回り基準ですべてのものができているので、それが左回りになるとどうなるのか。騎手や調教師といった関係者からは大丈夫か?という不安の声もありました。
やはりまず、レースは安全に開催されなければならない。ですので関係者の意見を聞いて、どうすればいいのかという検討を繰り返していきましたね。調教中に左回りの練習をやってみて、意見を聞き、施設面でカバーできることがあれば対応していきますし、後はやはり、左回りコース導入と同時にいきなり左回りレースばかりやるのではなくて、「開催期間中に1レース」「1日に1レース」というふうに少しずつ積み上げるように取り組んでいくことが大事だと考えています。
ーその左回りコースが導入されることで、この先、どのような展望が開けてきそうでしょうか?
JRAのダートでは、大きなレースはほとんど左回りですし、国際化を視野に入れれば、海外のダートもやはりほとんどが左回りです。TCKはサンタアニタ競馬場との提携をしているので、これを機に、サンタアニタにも声を掛けて「優秀な馬、どんどん来てください」というふうにやると、やっぱり盛り上がると思います。TCKの左回りコースが順調に浸透していけば、大井の馬がJRAや海外の強豪馬とも対峙できる日が来るだろうし、海外の有力馬が大井の重賞レースに出走してくれる可能性だって出てくると思います。
ーTCKは地方競馬の中でもトップグレードのレースを多く開催しているだけに、ますます楽しみですね。
そうですね、いまは積み上げていくことを第一に考えていて、まず距離は1,650m限定で始めます。それで、ゲート位置の問題などをうまく解決していければ、1,000mとか2,000mとかさまざまな形のレースをお客様にお届けできるのではと思っています。いくつかの重賞レースについても、将来的には左回りにしていくことも可能なのではないかと考えています。
あと、競馬場が左右両回りになると、そこに所属している馬たちはそのための練習をするようになる。右回り左回り両方練習していくことになると、バランスの良い馬体を作っていける可能性はありますね。その結果、大井の馬の質が向上して、強くなっていく、ということはあるのではと思っています。
コースの話だと、左回りのコースでも直線は300m取れるんです。左回りになっても、直線で相当長い距離を取れるので、面白くなるんじゃないかなと思っています。
ーこれまでもTCKは、「日本初」「地方競馬初」の取り組みで、世の中を驚かせてきました。
そういう新しい挑戦への原動力は、どのように生まれてくるのでしょうか。
TCKのDNAというのは、立ち止まらないことだと言われていて、長年、先輩方がいろいろな形で競馬に向き合ってきました。そのDNAが、今も引き継がれているんだろうと思っています。
我々は、それほど大きな組織ではないので、だからこそ、一つにまとまってみんなが同じ方向を向けば、ある程度すばやく動けるという強みがあります。職員全員が競馬に対していつも「新しいものは何か」「お客様に喜ばれるものは何か」「強い馬を育てるにはどうすればいいか」ということを日々考えて、そのアイデアを、なるべく実現する方向で考えています。それが、日本初という結果につながっているのかなと思います。
ー世界唯一の左右両回りコース。ファンのみなさまには、どのように楽しんでいただきたいですか?
右回りと左回りとではゴール位置が違うので、どちらのレースもゴール前で見ようと思うと、歩いて移動しなきゃいけない。けれど私は、そういうのも楽しいんじゃないかと思っています。競馬場だから、いろいろな場所を歩いて見て回るのもいいじゃないですか。実際のレースを現場で見る人にとっては、馬が左から来たり、右から来たり、ゴール位置に合わせて移動することでまた面白い競馬の見方が生まれてくるのではないでしょうか。
それと、今回の左右両回りコース導入に限らず、大井競馬場というのは東京都心にあって一番と言っていいほど立地に恵まれているので、どこよりも足を運びたくなる魅力を持っていないといけないと思っています。
社会の国際化というものが再び進みだした時に、そしてこのエリアがいままで以上に栄えていくという時に、東京の夜の楽しみとして、大井競馬場があるということを我々も認識しないといけません。コロナ禍でいままでどおりに観戦できなくなり、だからこそ、いままで以上に競馬場で実際に見ることの価値が、上がってくると考えています。
ー最後にあらためて、ファンのみなさまへのメッセージを。
コロナ禍でおよそ2年間、閉鎖的な環境で過ごされた方も多いかと思います。我々TCKは、いまこの時もみなさまのために、いろいろな工夫をして、レースを開催していこうと考えております。多くの方々にご来場いただけるようになったらぜひ、東京都心で唯一の広大な大井競馬場で、少し羽を伸ばして生の競馬を楽しんでいただきたいなと思っております。
ーありがとうございました。