第69回 東京大賞典 GI 第69回 東京大賞典 GI

レースヒストリー

2011年の帝王賞重賞4連勝中だったスマートファルコンは単勝オッズ1.2倍と圧倒的な人気に支持され2着を9馬身引き離す圧勝で前年の東京大賞典に続き新たなタイトルを手にした。当時大井でトラックマンとして働いていた私は、大井のビッグレースのたびに上京してくる中学生からの競馬好きの友人と大井で会う予定だったが、帝王賞の発走の時に大井競馬場に友人の姿はなかった。当日のお昼ごろ友人の父親が急死したと電話があった。仲が良く、頻繁に家族全員で競馬場に遊びに行っていたことも良く聞いていたので私もショックで正直、その日は一日胸に穴が開いた気分だった。

父であるゴールドアリュールの現役時代大ファンだった私は当然その産駒であるスマートファルコンもデビュー当初から注目していた。新馬戦はダートだったが、その後芝のOPレースを勝ち皐月賞まで駒を進めた。皐月賞の後はダート路線へ完全に矛先を変えてJDDは惜しくも2着だったが同年の白山大賞典で重賞初制覇を飾るとその後は数々のビッグレースを制し、歴史にも記憶にも残る名馬となった。

先手を取り卓越したスピードで押し切るレースぶりはスカッとして毎回強いのひとこと。時々アッサリ敗れてしまうところもまた印象に残る要因だった。

帝王賞の後も日本テレビ盃、JBCクラシックと連勝を伸ばし続けて迎えた2011年の東京大賞典。友人とは定期的に連絡を取り合っていたが「年末見に来るの?」のひと言がどうしても言えずにいたが12月の中頃に「東京大賞典、見に行くことにしたよ」と嬉しい連絡が届いた。当日のパドック、12頭立ての大外枠を引いたスマートファルコンはいつも通り雄大な栗毛の馬体で力強い足どりでパドックを周回していた。「いつものスマートファルコンだ、よし行こう」とひと言いい馬券を購入。見せてもらったのが1万円の単勝と複勝の馬券だった。「単勝1.0倍だぞ!?」と私が言うと「いいんだよ!父親は単勝と複勝しか買わない人で俺はいつも3連単や馬単が好きで買っていたけど、俺が外れるたびに『競馬は単複だよ』が口癖だったな」と笑って答えた。

ゴール板過ぎ、いつも通りハナに立ったスマートファルコンは1000Mを59.5秒のハイラップで飛ばしていく。3コーナー過ぎに2番手を引き離していこうとするがその後ろから虎視眈々とついてくるワンダーアキュート。大観衆に包まれた直線、逃げるファルコンに一完歩づつ迫るワンダーアキュート。ハナづらがぴったりと合ったところが栄光のゴールだった。正直スローで見てもどっちが勝ったのかわからなかったことを今でも鮮明に覚えている。

写真判定の結果1着の掲示板に12の数字が上がり連覇を達成。溢れる観客の中きっと友人にとって最も緊張し、一生忘れられない元返し馬券だっただろう。

数々の名勝負と名馬を生み出してきた東京大賞典。今年もどんなドラマが待ち受けているのか。過去の名勝負に思いを馳せながらその瞬間を待ちたいと思う。

日刊競馬 市川 俊吾