レースヒストリー

 東京ダービー過去61回の歴史を見てもこの近年はかつてなかった同厩舎ワンツーのラッシュ。2009年の川崎・足立勝久厩舎のサイレントスタメン、ブルーヒーロー、2012年の大井・森下淳平厩舎のプレティオラス、プーラヴィーダ、そして昨年の浦和・小久保智厩舎のラッキープリンス、パーティメーカーと、この7年の間に3回も同厩舎によるワンツーフィニッシュで東京ダービーが決着している。

 なかでも印象深いのは2009年の第55回東京ダービー。京浜盃、羽田盃を快勝したナイキハイグレードと、桜花賞、東京プリンセス賞の牝馬二冠を達成していたネフェルメモリーという川島正行厩舎の牡牝ナンバー1の対決が注目を集め、人気を分け合っていた。

 16頭のフルゲートに3頭を送り込んでいた足立勝久厩舎。3番人気ブルーラッド、5番人気ブルーヒーロー、サイレントスタメンは8番人気。

 スタートが切られるとダッシュ良く飛び出したのは内田博幸騎手鞍上のネフェルメモリー。どんどんペースを上げていく。このままでは逃げ切られてしまうという心理が働いたのか戸崎圭太騎手が手綱を取るナイキハイグレードは向正面で早くも3番手まで進出。直線では2頭のマッチレースになった。レースはこのまま川島厩舎のワンツーで決まったかに思えたその時、大外から一気にやって来たのがサイレントスタメン。道中15番手から直線ごぼう抜きの切れ脚だった。

 2着には好位から伸びた同厩舎のブルーヒーロー。ゴールを過ぎてサイレントスタメンの金子正彦騎手とブルーヒーローの真島大輔騎手がハイタッチするシーンが大きくビジョンに映し出された。

 単勝は3,310円、馬単では37,550円という配当が物語るように第55回東京ダービーは波乱で幕を閉じた。

「展開もあったんだろうね。前はやり合っているし、こっちは3コーナーで動こうとしたときに外に出せず動けなかった。じっとタイミングを待つかたちになったのが結果的に良かったんだと思うけど、4コーナー回ったときは前と100mくらい離れていて、まさか届くとは思わなかった。直線では他の馬がすべてが止まって見えた。ダービーという最高の舞台で最高の脚を使ってくれたね」と金子騎手はふり返った。

 レースでは強烈なインパクトを残したが、普段はスズメがいるだけで気にするような臆病な性格。全盲の母から生まれ育ったことや子供の頃に牧場が火事にあって怖い思いをしたことが影響しているのではないかと担当する坂野真佐樹厩務員から聞いたことがある。

 東京ダービー後は、持ち前の爆発力を発揮できず、不完全燃焼が続いたサイレントスタメン。8歳の東京記念を最後に岩手に移籍。過去20走によって格付けされる岩手ではC2からのスタートになり、新天地でもうひと花咲かすことを期待されたが、9歳をもって引退することが決まった。

 通算成績92戦10勝。東京ダービーが一世一代の大花火となった。

 3月27日には神奈川県の平塚乗馬クラブに移動し乗馬としての道を探った。しかしながら検査の結果、両目に白内障を患っていることが判明。乗馬としての再起は難しくなった。

 「サイレントスタメンは亡き父の形見のような馬。ゆっくり余生を過ごせるよう大事にしたい」という宮澤オーナーのはからいにより、今後はのんびりと余生を過ごすという。

競馬ブック 中川明美